YUTAKA YOSHIDA ARCHITECT & ASSOCIATES

 

庚午の家





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広島市内に流れる太田川放水路沿いの堤防下に位置するこの場所は、緑豊かな公園が隣接し、周囲には比較的低層な建物が建ち並ぶ閑静な住宅地である。初めて敷地に訪れた際、既存の木造住宅の隣には、新たに購入した更地がぽっかりと空隙としてあり、前面道路から更地を抜けて公園へと抜ける視界の繋がりに、この場所固有の敷地のあり方を垣間見た気がした。

計画当初は、2台分の駐車スペースを確保しながら、敷地を目一杯に使う2階建案、敷地半分に縦に積む3階建案でそれぞれスタディを始めた。結果、公園、道路、敷地内の空地による、外部空間の豊かなつながりや、将来の増改築への対応等から、北側に建物を配し、南側に庭を持つ3階建案を選択した。
公園や周辺からの視線を遮りながら、同時に室内からの眺望を確保するため、リビングを2階に、寝室スペースを3階に配した。2階へは、玄関から2層吹抜けとなる直階段でつなぐ。そこから上下階へと螺旋階段が貫く。コンパクトな住宅の中に挿入した2つの階段は、1階の趣味の多いご主人の作業スペースであるアトリエと水廻りを動線的に独立させるための、回遊性から導いたものである。
内部空間がはみ出すように延びた敷地いっぱいに突き出したテラスと、アルミサッシによる衝立は、敷地にできた空地を単なる余剰空間に留めることなく、新たな形式の中庭空間へと庭を柔らかく包む装置となることを試みている。将来、この余剰空間に増築される室へは、このスラブが渡り廊下として機能し、より密度の高い中庭空間を形成するものと考えている。

河川脇の比較的軟弱な地盤での3階建ての計画に際し、建物重量を軽減するため、ここでは、3階床を鉄骨で吊り下げた木造架構としている。2層吹き抜けのコンクリートの躯体に挿入された木造の床は、構成材である根太をそのまま化粧として表し、廊下をすのこ状に形成する。縦にのびる螺旋階段や細長い吹き抜け、そこに配した公園へ大きく対峙する縦いっぱいの開口、上部のトップライトから透ける廊下を通して落ちる柔らかな光が、風、音、気配と共に上下階にわたる拡がりと繋がりを生み出している。

敷地内での空地の創出と、隣接する公園への余剰空間の繋がり。場所の特性から導いたこのテーマは、内部空間から外部への連続性や、内部空間での拡がりの確保することと共に、この場所固有の住まいのあり方へと結実したのではないかと考えている。
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